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東京オリンピックとスケボーと『価値あるものだけが欲しい』社会

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 久し振りに何か書こうと思いまして。ちなみに『正解』らしきものは自分でもまだ見えていませんので、これから先に書く事はあくまでも自分の『意見』だと思って下さい。

 

 さて、東京オリンピックパラリンピックも終わりましたね。『無事』終わったかどうかは意見が分かれる所だと思いますが。で、やっぱりスポーツの世界ではオリンピックの影響って凄いみたいで、「オリンピックを見て自分も始めました!」っていう方も結構いるらしいです。

 

 その中でも新種目のスケートボードでは男子ストリートで堀米雄斗選手が金メダル、更に女子ストリートでは西矢椛選手が金、中山楓奈選手が銅、そして女子パークで四十住さくら選手が金、開心那選手が銀と日本勢が大活躍しました。

 

sports.nhk.or.jp

 元々スケートボードがオリンピックの新種目に選ばれた辺りから、日本国内でも注目度は高くなり、スケボー関連の用品が品薄になる程売れ始めていたらしいのですが、メダルラッシュになった事で更に売れ行きは伸びた事でしょう。そういう力が、オリンピックにはあります。良くも悪くも。

 

 で、何を思ったか、自分も買ったんですスケボー。それも40代のオッサンが。まだ乗れないし、これから先乗れる様になるのかどうかも実際怪しいんですけど。

 

 自分はスケボーがオリンピックの種目になった事も知らなかったし、オリンピック自体はテレビ観戦すらしない程スポーツに興味がない人間です。コロナの件があろうがなかろうが、自国開催だろうが何だろうがその姿勢は変わりません。

 

 元々、中学の時は体育の成績で『1』を付けられるくらい運動神経もアレで、(筆記試験の点数だけではフォローできない程実技が壊滅的だと言われた)陸上競技から球技、水泳その他、スポーツと名が付くありとあらゆるものに対して苦手意識があり、実際まともにできた試しがないです。逆上がりも回れないし、泳いでいる姿なんか溺れているのかと勘違いされるレベルです。唯一、スキーの初心者コースだったら何とか滑れなくもない程度ですね。それも最後に行ったのは10年以上前だと思いますが。

 

 そういう人間がムラサキスポーツ等の通販でパーツ買ってスケボーを自分で組む(セットアップって言うらしいです)くらいにオリンピックは影響力があるんだぜ、という話かというと、実はこれが全く逆の話で、自分は未だにメダルを取った日本人選手の競技映像も見ていないし、世界レベルの選手の凄さみたいなものもよく分かってません。練習したからといって自分が乗れるようになるとも思ってません。

 

 じゃあ何で中年のオッサンが乗れもしないスケボーを触ってみようと思ったのかと言うと、なんとなく日本のスケーターのこれからと、オタク文化のこれからが重なって見えてしまったからです。何より、実際に自分で触ってもみないで外からあれこれ言うのはスケートボード文化に対して失礼ですから。

 

 さて、スケーターとオタクってそんなに共通点無いだろ、と思われるかもしれませんね。実際、ちょっとダボッとしたDickiesの874を履いて、足元はスケートボード用のシューズ(スケシュー)で固め、ラフなスタイルでストリートを活動の場にしているスケーターと、ちょっと前ならアキバ系とか言われた様な典型的インドア派のオタクってある意味対極に見えるかもしれません。でも実は、今はなき秋葉原の駅前広場が有名なスケボースポットだった事もありますし、何より自分には、こうしたスケボーやオタク文化に対する日本人(特に多数派の人々)の『都合の良い姿勢』と、それによる両者の扱われ方ってそっくりだなと思えるんです。

 

 ここからは順を追って説明します。

 自分がスケボーに興味を持ったきっかけは、『オリンピックで金メダルを取った事で、もうスケボーはストリートでは出来なくなるかもしれない』という話を聞いたからです。

 

 スケボーをする場所って基本的には『ストリート』と言われる位なので路上や公園、駐車場等なんですが、今は屋外、屋内ともにスケートボードパーク』と呼ばれる専用の場所も出来てきました。周囲をフェンスで囲ってあって、地面はコンクリート等で舗装され、中には競技用のセクションが置かれていて、ちゃんとヘルメットを着用した上で安全に配慮して遊んで下さい的な場所です。後はスノーボードで言うハーフパイプみたいなU字型のミニランプが置いてある所とか。

 

 パークが整備されるのは良い事です。それは業界内部にいる方々の地道な努力や、オリンピック種目になった事などが追い風になって進んで来た『良い流れ』です。スケーターが怪我をしたり、逆に歩行者等を怪我させたりする心配がない場所で練習ができる環境が全国に増えて行くのは望ましい事ですし、スポーツとしてのスケボーがより発展して行く上での拠点にもなります。ただ一方で、町中を自由に滑る移動手段としてのスケボーにとって、『パークの中だけがスケボーをして良い場所』になってしまう事は、自由を失う事でもあります。

 

 現在の日本の道路交通法的に言うと、スケボーは「必ずしも『公道禁止』ではない」というのが正解です。道路交通法第七十六条第4の三では、以下の様に記載されています。

 

第七十六条  何人も、信号機若しくは道路標識等又はこれらに類似する工作物若しくは物件をみだりに設置してはならない。

(中略)

4   何人も、次の各号に掲げる行為は、してはならない。

(中略)

三  交通のひんぱんな道路において、球戯をし、ローラー・スケートをし、又はこれらに類する行為をすること。

 

 この『交通のひんぱんな道路』というのが、どの程度の交通量の事を言うのかという問題もあり、過去の判例では『1時間あたり、原付30台、自転車30台、歩行者20名程度の場合は、交通のひんぱんな場所とはいえない』というものがあるそうですが、問題はそこではなく、スケボーは日本では『遊び道具』であって、自転車等の軽車両の様な『移動手段』としては認められていないという事です。そもそもブレーキも付いていない様なものを、公道を走行する移動手段として認められない、という事でしょう。逆に最近話題の電動キックスケーター等は、ナンバーを取得して原付バイクと同じ扱いにすれば合法的に公道を走る事もできますが、スケボーで公道を滑れば、明確な基準が存在しない以上、それを見た警察官の判断次第で即座に取り締まりの対象になるという事です。

 

 海外でスケボーが道路交通法的にどんな扱いを受けているのかは分かりませんが、『クルージング』という移動手段としてのスケボーの楽しみ方があり、クルーザーと呼ばれるクルージングに適したスケボーの形があります。中には『Penny(ペニー)』の様に、ビーチの脇の舗装路をサンダル履きとか、何なら素足で乗っちゃう様なスケボーもあります。

 

pennyskateboardsjapan.com

 

 ですが、日本で本当にスケボーをストリートでやろうと思ったら、それは常に「道交法違反の可能性がある中で、自己判断で乗る」事を意味します。だからオリンピックでメダルを取る様な選手は、過去にストリートで滑っていた動画があれば、今後炎上の火種になりかねないそれらの動画を消し、少なくとも日本国内ではもう公道でスケボーに乗らない様にするしかないんじゃない? というのが今の流れです。

 

 ちゃんとスポーツ化して、少しでも違法性がありそうな事はせず、周囲に迷惑を掛けたり批判されたりする事がない様に、パークの中で行儀よくしている事。自分ではスケボーをしない、スケーターではない大多数の人々がこれからのスケーターに求めて行くのはそういう事です。それを今ストリートにいるスケーター達がどう受け止めて行くかという事でもあります。

 

 そしてそれは、スケボーの文化だけではなく、オタク文化にも求められている事です。

 

 オリンピックに関連して、安倍前首相がマリオのコスプレで登場したり、オリンピック開会式のBGMがゲームミュージックだったり、『クールジャパン』とか言われる中で、アニメ、漫画、ゲーム等のオタク文化『日本が世界に誇る文化芸術』であるかの様に位置付けられ、積極的にPRされて来ました。日陰者がいつの間にか陽のあたる場所に引っ張り出された様な感じです。でも、そうしてクールジャパン的な事をアピールしたい人達が評価してくれるオタク文化は、全体から見ればほんの一部分でしかありません。

 

 例えばアニメ映画なら、宮崎アニメの様なもの。宮崎駿新海誠細田守、最近では庵野秀明監督作品もその中に入るかもしれませんが、そういう『陽のあたる場所に出しても恥ずかしくない作品』だけを世間は評価します。漫画でもゲームでもコスプレでも同じ事です。

 

 そこではエログロに代表される様な『困った奴ら』『存在しないもの』として扱われます。例えばコスプレなら、外国のオタクが日本のアニメキャラに扮して「日本文化大好き!」みたいに言ってくれるタイプのコスプレは『良いコスプレ』であり、国会議員や地方自治体の長もそれに乗っかって慣れないコスプレをしたりしますが、『性的なプレイ』の方に近いコスプレや、『軍装マニア』みたいな一歩間違えたら思想的にヤバそうな『困った奴ら』は歓迎されないどころか無視され、場合によっては批判されます。

 

 本来はそうした『困った奴ら』も含んでいるからこそ成り立って来た文化というものがある訳です。でも、世の中が求めているのは、そうした文化全体がある事によって生み出された『成果物』だけです。

 

 それはスケボーならスポーツとしてのスケボーであり、日本人選手のメダルであり、オタク文化ならその中でも対外的に恥ずかしくないものです。一方でストリートにいるスケーターは、恐らく今現在も「スケボーを持ち歩いていた」というだけで警察官から職務質問を受け、デッキテープを切る為のカッターナイフやスケボーをメンテナンスする為の工具を持っていた事が原因で銃刀法違反で取り締まられたり、公道でのクルージングを咎められたり、公園や駐車場からキックアウト(追い出される事)されたりしています。オタクに関しては言わずもがなです。

 

 自分は「それってズルくね?」って、ちょっと思ってしまう訳です。

 

「オリンピック、新種目のスケートボードで日本人選手が金メダルです!」って喜ぶ一方で、ストリートにいるスケーターを狙い撃ちする様に職質したり、「日本のオタク文化良いですね! 海外でも大人気ですね!」って言いながら、エログロでもBLみたいなものでも、対外的に恥ずかしいコンテンツに対する評価は無視し、むしろ規制したりする姿勢。それって外野から「美味しいところだけをつまみ食いされてる」みたいな、「文化全体から上澄みの綺麗な所だけ吸い取られてる」みたいなズルさを感じる訳です。

 

 じゃあ、文化全体を評価するならスケーターがどこを滑ってようが不問にしろとか、オタクやクリエイターが何してようが規制をするなと言いたいのかというと、そんなものはただの『無法地帯』な訳で、あり得ない事だとは思います。ただ、横から美味しい所だけをつまみ食いするんじゃなくて、そういう『ダメな部分』が社会の中である程度許容されて来たからこそ今現在の成果があるんだっていう事はもう少し知られても良いし、その文化の裾野の方に困った部分があって、そういった文化に馴染みがない人達との間ではお互いに配慮が必要だよねっていう前提の中で、スケーターやオタクが何もしてこなかった訳じゃないっていう事はもう少し認められて良いと思います。それが「スケボースポットとして使わせてもらってる場所のゴミくらいは自分達で拾っておこう」とか、「外に出すとひんしゅくを買うだろうコンテンツは内々で楽しむに留めておこう」といった、ささいな気遣いに過ぎないものだったとしても。

 

 どんな文化にもそれを育むのに必要な『土壌』があって、そこに種を蒔くから実がなる訳ですが、もしかするとその土壌の中には肥やしみたいに臭いものもあるかもしれない。でもそれを取り除いてしまった土から花が咲く事は多分無いし、ましてや金メダリストみたいな実がなる事は無いんだろうなと自分は思う訳です。だったら自分達も「臭かろうが何だろうが作物を実らせる為に我慢しろ」と開き直るのでもなく、「臭いものは臭いんだから近くに寄るな。実だけをよこせ」と言うのでもない互いの立ち位置を探して行かなければならないんじゃないかと思うのです。それがある特定の文化や社会全体を『豊かにする』という事なのではないでしょうか。

 

 残念ながら、現在の日本は『価値あるものだけが欲しい』社会になっているし、臭いものは遠ざけられ、目先の価値を産まないものは切り捨てられる社会になってしまっていますが、それを続けて行った先に、どれだけ価値あるものを実らせる土壌が残って行くかは微妙な所だと思います。

 必要なのは対話と協調と歩み寄り、そしてある種の寛容さであって、それがないのなら、後は緩やかにこれまでの遺産を食い潰しながら衰退して行く道があるだけではないでしょうか。

 

 これが現時点での『正解』ではない、自分の『意見』です。

 

 そして個人的には、せっかくスケボーを組んだ訳なので、せめてプッシュ(片足をスケボーの上に載せて、反対の足で地面を蹴って前に進むやつ)はできる様にしたいなと思います。今はデッキの上に立つだけでもちょっと怪しいレベルですが。

 

 どちらも、今後の課題は山積の様です。


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